Happy Go Lucky 宝船 / 浪絞り+ジャガード刺繍 × ミヤケ マイ(美術家)

のれんを支持体とした、美術家・ミヤケマイの作品

インスタレーション作品を手掛ける美術家ミヤケ マイ氏のデザインした波間を漂う宝船と、その周りを飛び交う蝙蝠を描いた[Happy Go Lucky 宝船]。背景の波模様は今回開発した特別な絞り染め、宝船と蝙蝠の意匠は存在感のある刺繍で表現している。ミヤケ氏は日本の美意識を元に過去・現在・未来をシームレスにつなげながら、 物事の本質や表現の普遍性を問い続ける美術家。工芸的な掛け軸から、インタラクティブなデジタル表現まで、多様なインスタレーションアートを創作している。以前よりミヤケ氏は絞り染めで波を表現してほしいという希望があり、今回共創するのれんは絞り染めの技法を軸としたアイデアが基となった。

※絞り染め=糸や板などで布を縛り、その部分の色を止める染色技法。以下は絞り染の一種の板締め絞りの表現。

波の有機的な動きと遠景を表現する、「浪絞り」の開発。

ミヤケ氏のデザインを表現するにあたり、絞りの技術で如何に波模様を表現するかを検討した。従来の絞りは、連続的でフラットな表現の作品が主であったが、今回求める表現は連続的且つ有機的であり、また面として絵画的な遠近法を絞りで表現することが求められ、職人とともに波模様を如何に表現するかを模索することろからはじまった。

 

検討の末、大きな円筒に生地を巻き、締め付け、その折り目によって絞りを行う、嵐絞り、むらくも絞りの技術を応用した方法に辿り着いた。また染色についても従来の浸けて染める藍染め手法ではなく、藍の顔料(青)と胡粉(白)を調合して、摺りこんで染めることで色の濃淡表現し、奥行きのある遠景表現を試みた。生地を折りたたむと、その長さは何倍にも圧縮され、染色作業はmm単位の繊細な作業が求められる。しかし、絞り染めの経験を重ねた熟練の経験と技術で、その繊細な表現を実現し、消失遠近法による絵画的な波の遠景を表現することができた。※以下は、今回開発した浪絞りの作業風景。

 

過去 - 現代 - 未来をつなぐ、一枚絵ののれん。

地に工芸的で素朴な波模様を染めた上に、異なる素材感で旧来にはない現代的で典雅な色彩の刺繍を施すことで、古来のモチーフを取り入れながら、現代の空間とも調和し、またこれからの可能性を示唆するのれんが完成した。

 

伝統工芸・日本文化に精通したミヤケ氏の吉祥模様をベースとした意匠ののれんは、古来より日本は海の向こうから吉祥がくると考えられてきた信仰を軸に、幸福の瑞兆を表す「福の蝙蝠」が飛び交い、繁栄・商売繁盛を願う宝船が水飛沫をあげて大海原へ漕ぎ出している、現代的な吉祥の一枚絵となった。

 

のれんを支持体に、ミヤケ氏独自の素材と工芸技法を熟知して自らの図案に取り込み、波にみたてた絞りに動きのあるのれん特性に合わせて光と立体感を刺繍で加えるところは全方位に工芸的な技術に関心のあるミヤケ氏ならではの日本古来の文脈を現代に蘇られる手法である。