惑星Ⅰ-Ⅹ / ぼかし染め × 関戸 貴美子(アートディレクター・グラフィックデザイナー)

ひとつののれんに、多彩な「ぼかし」。

ぼかし染めの多彩な表現が、いちまいののれんに詰め込まれた「惑星I-X」。アートディレクターの関戸貴美子氏がパンデミック禍の人やものの移動などの「距離」を惑星の巡りになぞらえてデザインした作品。

 

ぼかし染めは刷毛の種類や扱いにより、様々なグラデーションや滲みなどを表現する技法。主に薄い色味で粘度の低い染料を何度も生地に摺り込むことで自然な色合い・風合いを生み出す。プリントとは違い、全体を1度で染め切るのではなく、何度も染料を染め重ねて色の濃度を出して行く為、色の諧調が非常に豊かで、情緒深い染め上がりとなる。また、裏面にも浸透する為、のれんを染めることに適している。

ぼかし染めの表現。

職人の染色技術の追求。

関戸氏とぼかし染めを用いたのれん製作は今回で2度目であり、2021年に菅原硝子工芸の店舗ののれんを製作した。硝子をテーマにした前述ののれんは繊細なぼかしと柔らかな色彩により、目を見張る美しい仕上がりとなった。その経験から此度はさらなる表現を追求した。前述のとおり、ぼかし染めの全てが手仕事によるもので、職人の技術や経験、センスによりその仕上りは大きく左右する。今回、「惑星I-X」の各惑星を表現するにあたり、色はモノトーンという縛りを敢えて設け、より高度な職人の技術表現に挑戦した。

※以下、以前に製作した菅原硝子工芸ののれん製作風景と完成したのれん。

 

2021年に関戸氏と製作したのれん。

いままでの経験を集約。

各惑星の表現にあたり、過去の経験を総動員して集約した。前回の関戸氏との協働で培った自然な諧調の淡い表現をはじめ、縁の滲み、緩やかなボーダー、ドリッピング、刷毛跡を残す表現など、いままでに製作したのれんから培った表現を詰め込んだ。これらの表現はモノトーンで表現されることで、染色技術は一層際立つ為、職人には多大な集中力が求められた。※以下、サンプル及び製作プロセスの資料。

ぼかし表現の粋を尽くしたのれん。

試行錯誤の末、多彩なぼかしの表現を取り入れながらも、一枚の絵として一体感があり、迫力あるのれんが完成した。ひとつひとつの惑星には、職人の手染めでなければ表現が難しい、奥行きのあるぼかしが施されている。活動を行う中で、手染めとプリントの違いについての違いを尋ねられることが少なくないが、特にぼかし表現はその差が顕著であり、「惑星I-X」の実物をみるとそれは一目瞭然である。のれんは「潜る」という身体体験が生じるプロダクトであり、衣服の様に肌と触れ合う。この作品にふれることで、伝統的な染色技術のポテンシャルを示唆し、その価値への共感が増えることを願う。