麒麟紋・麒麟紋曼荼羅 / 印染め・昇華転写 × 波戸場承龍(紋章上會師)

紋のアップデート×のんれのアップデート。

家紋とのれんの「伝統」と「革新」をテーマに製作した[麒麟紋]と[麒麟紋曼荼羅]の連作。時代を同じく歩んできた家紋とのれんの新たな表現として製作した。紋章上繪師の波戸場承龍氏は家紋を手描きで入れる職人「紋章上繪師」としての技術を継承し、円と線でのみ構成する古来の紋章上繪師の描き方やデザイン手法を用い、家紋を現代のライフスタイルと調和するデザインへアップデートしている。同様に中むらも、のれん文化のアップデートに挑戦しており、のれんを支持体として家紋とのれんの魅力を伝えるべく協働した。

※以下は家紋の見本帳ともいえる紋帳。

家紋を集積した紋帳

家紋と、のれんの歩み。

家紋の始まりは平安時代に公家が牛車を区別する為の目印として用いられたのに端を発するといわれている。のれんも現在の形状となったのれんがはじめて見られるのは、平安時代の絵巻物「信貴山縁起絵巻」である。その後、庶民が公家や武家の紋を真似て家紋が普及していったのと同様に、のれんも庶民のあいだでメディアとして育まれ、その後江戸時代に大きく進化・普及した。つまり、家紋とのれんは同時代にはじまり、同じく文化の系譜を辿ってきた。現在でも家紋を伝える媒体としてのれんは多く用いられ、その活躍の幅も増えている様に感じる。また、西洋との対比に於いても、日本で家紋は庶民も持てるが、西洋では家紋に相当する紋章は貴族しか持つことが許されないという点があり、のれんに於いても西洋建築は石やガラスの固く変わらない建築だが、日本建築は木や紙や布を多く用いる柔らかくうつろう建築であり、家紋・のれん共に西洋と対比すると日本ならでは且つ、日本らしい文化が多く包括されている。※引用元:熈代勝覧 日本橋ガイド https://nihonbashi-info.tokyo/kidaishoran/ 

 

伝統と革新の往来。

今回製作したのれんは、2019年に参画した、東京・日本橋のデザインイベント「めぐるのれん展」にて製作した「麒麟紋」を復刻したものである。2つののれんが対となっており、紋を染め抜いた麒麟紋は伝統的なのれんを染める技法「印染め」、家紋を構成する円の軌跡をアート表現として取り入れた麒麟紋曼荼羅は現代の染色技法「昇華転写」で染めた。互いに表現は違うが、家紋・のれん共にその背景には手仕事が根本にある。印染めののれんには情緒ある深い色味と素材感、昇華転写には手染めでは表現が難しいグラフィックの自由度がある。双方共に持ち味があり、また不得手なところがある。それらを知った上で、伝統と革新を往来することで、互いの価値が上がって行くのではと考える。

 

波戸場 承龍 (紋章上繪師) 

家紋を手描きで入れる職人「紋章上繪師」としての技術を継承し、古来の紋章上繪師の描き方やデザイン手法を用い、日本人の持つ繊細な表現技法と大胆な構図、引き算の美学を追求している。様々な業種の作り手やブランドとのコラボレーション、アート作品を通して、家紋を現代のライフスタイルと調和するデザインへと昇華させている。