鳥の歌 鳥よ、僕の骨で大地の歌を鳴らして。 / インクジェット+横振り刺繍 × 大小島 真木(現代美術家)

のれんを支持体とした、美術作品。

のれんを支持体とした、現代美術家・大小島真木の作品。鮮やかな色彩と生命の迫力を表現するため、正絹生地へのインクジェット染色及び、伝統的な横振り刺繍で製作をした。大小島氏は自然のなかの生命・死の諸相をテーマに絵画や壁画、近年では陶器などの作品創作を行なっている。今回の作品は、のれんの持つ境界としての意味合いを軸に、「生と死が行き交う境界的な儀礼としての鳥葬」をコンセプトとした。日頃はキャンバスやレザーなどを支持体として、肉筆で描き込んでいくのが主な大小島氏の製法であるが、従来の製法とは違い今回は絵画を元絵として、職人の手でのれんとして表現する試みをした。

 

大小島氏は日頃の作品創作に於いて、地域の匂いや文脈を汲み取り滞在型の創作を行うことが多く、また大切にしている。本プロジェクトに於いても、同様のプロセスでの製作をしたく考え、北陸の複数の工房を訪問し、その上でデザイン製作を行うこととした。※以下はフィールドワーク時の工房訪問の様子。

北陸地方の様々な技法の工房を訪問した。

製作技法の選定。

北陸地域の刺繍・箔加工・友禅染めなどの工房を訪問したフィールドワークを行なった結果、第一弾はインクジェット染色と横振りミシンという呉服などに用いられる伝統的な刺繍を組み合わせた手法で製作を行うこととした。インクジェットというと、量産品の印象もあるが、機械を扱う職人やその経験によって仕上りは大きく異なる。特にのれんに於いては一点ものであり、作品ひとつひとつに最適な色情報を職人が見出す。今回協働を行う職人は発色の弛まぬ研鑽を重ねており、鮮やかな色彩表現を得意としている。そこで、色彩の豊かな大小島氏の絵画を、インクジェットの職人が表現することに挑戦した。また、図案の一部にハイライトとして質量感がある刺繍を加えた。刺繍は横振り刺繍という職人が手作業で行うミシン刺繍であり、伸縮のある生地という素材に機械刺繍では難しいピンポイントで様々な刺繍を施すことができる技術である。

※以下は横振り刺繍の作業光景。

 

レバーを足で横に振り、ミシン針の強弱を調整して刺繍を行うことから、横振り刺繍と呼ばれる。

色彩表現の検証。

インクジェットで染色を行う際はビットマップデータが基となる。デジタル上の視覚情報と、フィジカル且つ染料の表現では誤差が生じる為、のれんを支持体とした際の豊かな色彩を表現する為にサンプル検証を重ねた。最初のサンプルでは彩度が低くおぼろげな印象となってしまい、彩度を上げつつ全体が自然な色彩で調和のある色情報を追求し、微細な色調の調整を重ねることで、のれんとしての美しい色彩を帯びた表現に辿り着いた。メディアが変わると作品の印象はがらりと変わり、布への染色らしい色彩と素材感となった。※以下は初回サンプル(左)、最終サンプル(右)の対比

初回のサンプル(左)、最終のサンプル(右)の対比。

空間の装飾美術となる、絵画的なのれん。

のれんとして仕上がると、それは存在感を放ち、空間を彩る装飾美術にもなるのれんとなった。多彩な色彩で描かれた作品が、繊細な絹の生地に美しく染まり、横振り刺繍の画竜点睛により、生命感が備わった。また生地の横糸には銀糸が織り込まれており、風に揺らぐと暗部が輝く。のれんならではの大小島氏の作品が完成した。

大小島 真木(現代美術家)

異なるものたちの環世界、その「あいだ」に立ち、絡まり合う生と死の諸相を描くことを追求している。