DOT DOT/ 和更紗× Colin seah

外からの視点で、日本の伝統染色の魅力を可視化することに挑戦。

関東経済産業局とシンガポールデザイン庁の共同プロジェクト[KYOproject]に参画して共創した[DOT DOT]。KYOprojectは関東のつくり手と、シンガポールで国際的に活躍するデザイナーとの共創により、新たな価値づくりを目指すというコンセプトであり、中むらはシンガポールに拠点を置き、世界で活躍するデザイン事務所Ministry of DesignのColin Seahとコラボレーションに取組んだ。

 

Colin Seahは世界中のホテルや商業施設の建築や空間のデザインを手がけており、「外」からの視点で可能性や、また課題を掘り下げてひとつの成果物を製作をすることを目標とした。今回選定をした和更紗という技法は複数の型紙を用いた多色染めの技法であり、江戸時代にインドより伝来した更紗模様を日本版にローカライズしたものである。日本らしい特徴として、インドでは木版や銅版を用いるが、日本ではそれに加えて型紙(渋紙という和紙を貼り合わせた強固な紙に意匠を彫ったもの)で染色を行うことが特徴である。その工程や実際の素材などを知る為、先ずはColin Seahらと共に工房を訪問した。※以下は工房訪問の様子。

「外」からの視点で感じる、日本の伝統染色の課題。

Colon Seahは日本のものづくりには兼ねてより大変関心があり、染色についても認知があった。工房見学を通じて技術のプレゼンテーションを行い、その上で彼には課題を感じている点があった。それは、日本の伝統染色にはすごい技術や手間が込められていることはプロセスを知ると分かる。しかし完成品からでは、そのプロセスが見えづらく、現代の主流となっているプリントとの差別化が視覚的に見え辛いという課題であった。そこで、 Colin Seahは手仕事の素晴らしさ、またそこから生み出される美しさを伝えるべく、前述の課題をデザインで解決することをテーマとした。※以下はデザインのラフスケッチとアイデア資料。

 

デザインのラフスケッチ。

「プロセスの可視化」をコンセプトとしたデザイン

Colin Seahは、日本の伝統染色の価値をデザインを通じて伝えるソリューションとして、「プロセスの可視化」をテーマとしたデザインを考えた。従来の和更紗で複数色を用いる場合、そのほとんどが色は重ねずに(一つの型で基本は一色)染め分けるが、敢えて型を重ねて染めることでその工程が視覚的に伝わることを目指した。デジタル上では均一となる重なりだが、手仕事ではその重なり方にはゆらぎが生まれ、そのランダム性に美しさがあるという仮説のもと、染色表現に挑戦した。また、モチーフする意匠は印刷物やコンピューターのディスプレイなどの日常生活で視覚情報を得る上での最小単位の構成物であり根源的なモチーフのドットとし、DOTDOTと名付けた。

※以下はサンプル検証の光景。

辿り着いた、重なりによる染色表現。

DOT DOTの求める重なりの表現を追求すべく、染色材料及び調色の試作検討を行いひとつの表現に辿り着いた。通常和更紗では染料という水溶性の着色料を用いて染色を行うが、今回の表現を行う上では染料同士がぶつかり色が濁ってしまい、思う様なレイヤーが生まれなかった。そこで、不水溶性の顔料という色素を糊で生地の表面に摺り込む技法に切り替え、試作検討を行うとそこに光明が見えた。それでも、重なりやドットの縁を綺麗に出す表現などには課題があり、デザイン及び職人の技術によりその解決策を練り、要約求める表現に辿り着いた。結果、色の重なりもデジタルでは表現のできない、ゆらぎやランダム性が表現でき、手仕事ならではの表現となった。

 

完成したDOT DOTはシンガポールのデザインイベントの「Singa Plural」でインスタレーションとして披露し、その後テキスタイルアートパネルとして展開している。日本の文化の外からの視点からのアプローチは従来とは大きく異なり、共創を通じて新たな視点を得ることができたプロジェクトとなった。