暖簾考08 – 朴正義

日本橋からの発信

中村

日本橋で、2018年に「未来ののれん展」、2019年に「めぐるのれん展」を開催し、私も携わらせて頂きましたが、のれんが中心のデザインイベントを企画されたきっかけについてお聞かせください。

僕は、日本橋という街の未来を創る「nihonbashi β」というプロジェクトに関わらせていただく中で、秋の日本橋を代表するイベントとしてサスティナブルに続いていくものを企画したいという思いが先にありました。「街の未来」をテーマにしているからこそ、10年後、20年後の街に、その姿さえもなくなってしまうようなモチーフを選ぶわけにはいかないからです。つまり、未来がテーマだからこそ、今この瞬間だけの流行りではなく、「10年後、20年後にも日本橋の街に残っていてほしいモチーフ」を選ぶ必要があったんです。そう考えた時に、見つけたのがのれんだったんです。江戸時代はもちろん、今、現在も日本橋の街並みを多くののれんが彩っています。10年、20年先と言わず、100年後の日本橋の街並みにも残っていてほしい光景だと素直に思いました。のれんの歴史を調べると、その機能性も面白いなと思ったんですよね。そんな理由から、日本橋のシンボルであるのれんをテクノロジーとデザインの力でアップデートしてみようと考えました。2018年、最新テクノロジーによる創作のれんの展覧会を開いて、多くの方に楽しんでいただけたことに手応えを感じたので、2019年は、江戸時代の絵巻「熈代勝覧(きだいしょうらん)」のように街にのれんがかかかったら壮観だろうということで、たくさんの企業や店舗の方にご協力いただきました。

中村

それぞれの思いが込められた32社ののれんがかかった光景は圧巻でしたね!表現の幅が広いことにも驚きましたし、日本橋という街が持つ懐の深さみたいなものを感じました。

本当にそうなんですよね。あれが、六本木や渋谷でできたかっていうと各社の思惑ばかりが前に出て、街が1つにまとまらなかった気がします。のれんという言葉は、“ のれんを継ぐ、守る” などブランドを表すこともありますが、日本橋の企業のみなさんからは、この街でやってきたんだ、これからもやっていくんだという格を感じました。ポスター展であれば普通は宣伝担当の方が来られるのでしょうが、のれん展の説明会には、みなさん経営者の方々が来られていました。その時点ですでに熱意がすごかったですし、「うちにとっての、のれんはこうなんだ! 」と、それぞれののれんが会社のもつ個性が表れたものになっていて、のれん展をご観になられた方も面白かったと思います。

中村

のれんによって街と未来が1つに束ねられたというか、街としての表現、企業としての表現、さらにそれらをつなぐ表現、3つの軸でアップデートされているように感じます。

確かに、江戸時代の日本橋の軒先にも、たくさんののれんはかけられていたけれど、“ みんなをまとめる、つなぐ” ということを意識的にやっていたわけではないから、のれん史上初めての出来事を成し遂げた!と言えますね。( 笑)

のれん、宇宙へ行く

中村

「めぐるのれん展」には、多くのクリエイターが参加し、様々な素晴らしいデザインののれんが生まれましたが、どの様に感じられましたか?

日本の第一線で活躍する多くのクリエイターにのれんをデザインしていただきました。みなさんクリエイターとして面白がっていただいたというか、インターフェースとして、のれんが持つポテンシャルに改めて気づかされたのではないでしょうか。のれんには、“ お店が開いています” という意味や“くぐる” といった機能も含まれていて、じつはのれんをデザインすることって、とても素敵な行為なんじゃないかと思うようになりました。

中村

朴さんもJAXA ( 宇宙航空研究開発機構) ののれんをデザインされましたが、どのような意味や思いを込められたのですか?

JAXA の方たちの共通の課題として、宇宙は日常の生活とはつながっていないこともあり、一般のみなさんに宇宙をもっと身近なものとして感じていただきたいという強い思いがあり、そのメッセージを表現として形にしました。まさに「宇宙へ、いらっしゃい!」ですね。(笑)のれんの中央には通常、円形の紋が配置されますが、JAXA ののれんでは、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」にある丸窓を紋に見立てて原寸大で配置しました。直径60cmくらいでちょうどよかったんですよね。あわせて、のれんの右側には「きぼうまで400km」と、国際宇宙ステーションまでの距離を表記しました。五街道の起点でもある日本橋は、現在も日本の道路元標が置かれ、0km 地点に位置します。横浜29粁(km)、名古屋370粁、京都503粁など日本橋から各都市への距離も添えることで、「え!宇宙って、京都より近いんだ!」と身近に感じていただけたらと考えました。そして、五街道の起点である日本橋に、6つ目となる宇宙への道もできたんだよ、という宣言にもつながるといいなと考えました。さらに、裏側にはきぼう棟の内部を大胆にデザインしてみたのですが、中央部分に目を凝らすと、“ き・ぼ・う” と記されたのれんがかかっているのが見えると思います。これは合成写真ではなくて実際にかけられている、宇宙で唯一ののれんなのです。こののれんは、展覧会が終わった後も、JAXA 初の宇宙ビジネスにおける共創拠点となる「X-NIHONBASHI (クロスニホンバシ) 」の室内にかけられているのですが、来場者のみなさんが、のれんから顔をのぞかせるようなポーズで記念写真を撮られるそうです。インターフェースとしての、のれんの機能をしっかり発揮することができました(笑)。

中村

すごいですね!のれんのもつ意味が幾重にも込められている気がします。今、日本橋のJAXAのビルだけでなく、世界の宇宙開発研究機関が集まるヒューストンやモスクワなどのJAXA の施設にのれんをかけるという話にまで広がっているのも大変光栄です。のれんという文化やインターフェースとしての魅力を世界の方に向けて発信できるのはとてもうれしくなります!

のれんは、アフォーダンス的には、まさに外と内を仕切る境界なんだけど、実は中に入ってきていただくための境界でもありますよね。あなたを歓迎します!という意味を持っている。そこが本当にすごいと思います。

テクノロジーと、のれん

中村

朴さんは、最新のテクノロジーを使って、広告コミュニケーションの世界をアップデートされていますが、伝統的で物質的なのれんとデジタルは対極に存在するもののように感じます。

対極とは思いません。新しいテクノロジーというのは、いろんな事情で積みあがってできてきたものを、再度、最小単位に要素分解して、より効果が大きくなるような再構成を実現するために活用するものだと考えています。言い換えれば、デジタルによって、いろんな無駄が省かれ、よりリアルで素敵なことに費やせる時間を増やしましょうということです。ただ、2018年の「未来ののれん展」で、のれんの機能をテクノロジーによってアップデートできないかと挑戦したのですが、その結果、のれんには無駄がないことに気づきました。ブランドを表現する看板としての要素、境界としての要素、人を歓迎する要素など、いろんな機能があのシンブルな構造の中に全部入っていたんです。だから何百年も変わらずに存在してきたんでしょうね。

中村

今の話をお聞きしていて、のれんに何か機能を加えようとするよりももう一度、価値観を知ることがアップデートにつながると改めて実感しました。今後、のれん製作の場でも、前に進むために原点に立ち戻ってみることで、のれんの魅力を多くの方に伝えていけたらと思います。

今後、のれんや“ のれんのある街並み” を広げていくときに単に規模を大きくしていくのではなくて、例えば、海外とつながってみるとか、日本橋のように街として1つにまとまる精神性を持った地方都市で行なってみるとか、そういう方が面白いし、のれんの意味合いが濃くなり、さらに発展していくと思います。

朴 正義(ボク マサヨシ)株式会社バスキュール 代表取締役。さまざまなモノゴトの未来の体験づくりに挑むクリエイティブチーム バスキュールの代表/LIVEPARKファウンダー/BAPA校長/nihonbashiβ代表/宇宙メディア事業構想「KIBO宇宙放送局」発起人。
株式会社バスキュール https://bascule.co.jp/
中村 新1986年東京生まれ。有限会社中むら代表取締役。
大正12年から平成17年まで着物のメンテナンス等を請負っていた家業の中むらを再稼働し、平成27年よりのれん事業を開始。日本の工芸や手工業の新たな価値づくりに挑戦しており、職人やクリエイターとともにのれんをつくるディレクターとして活動。のれん事業の傍らでつくり手の商品開発や販路設計にも取り組んでいる。

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